2022年度から、愛知県知多郡美浜町で産官学が連携し、スポーツを核としたまちづくり事業が始まった。スポーツと健康・福祉・教育・経済を連動させ、地域活性化を目指すこのプロジェクトの一環として、美浜町立河和小学校での体育の授業や放課後教室で導入された”English Sports Camp”は、子どもの体力・運動能力低下の課題を解決すると同時に英語のアウトプット能力の向上を目指している。美浜町の教育現場で起きている変革とその未来について3人が語った。


山中 美浜町だけの課題ではないと思いますが、近年、子どもたちが思い切り体を動かして楽しめる場が、昔と比べて少なくなっていると感じています。子どもたちは内に秘めた大きなエネルギーをもっているので、体を動かす機会が失われることで彼らの大きなエネルギーが発散されないままだと、体と心の成長に滞りが生まれ、座学の時に集中力を維持できないといったような、子どもたちの学びの土台に悪影響が及ぶことを危惧しています。

伊藤 全国的に子どもたちが自由気ままに遊べる場が減少し、子どもの体力・運動能力の低下が叫ばれていますが、その課題解決に向けての一手段として、English Sports Campに取り組むことにしました。

中村 全国的に現代の子どもたちは「時間・空間・仲間」という3つの「間」が失われています。English Sports Campは運動が得意な子も苦手な子も、楽しみながら体力・運動能力を伸ばし、英語での自己表現を促すプログラムも盛り込み、自発性を育む継続的なプログラムです。

伊藤 今回いただいたEnglish Sports Campのご提案は、学校教育課が受けて企画課が現場を担当しています。行政の仕事は、よく”縦割り行政”と揶揄されますが、今回のプロジェクトは役場の中での横の連携が非常に上手くできている印象です。スポーツを核とした地域活性化の実現といった町全体が共有する大きな目標があるからこそですね。


中村
 単に“仕事”と捉えると難しい表情になってしまいますが、スポーツまちづくりってとてもワクワクすることなんですよね。このワクワク感は持続可能性の本質かもしれません。English Sports Campのような英語とスポーツを掛け合わせたプログラムは、他の地域で単発イベントとしての開催事例はあっても、学校の授業に取り込むなど継続性を持って実施している美浜町は、他の地域にはない非常に稀なケースだと思います。

山中 私も何より楽しいことが好きなので、スポーツまちづくりは純粋にワクワクしています。子どもたちも徐々に慣れてきたのか、回を追うごとに自信に満ちて声も大きくなり笑顔も増えました。子どもたちが本来もっているエネルギーが溢れ出しているような印象です。

伊藤 運動量や進行リズムも非常に良くできていると思います。体育の授業というと、静かに整列することなど”規律を守らせる”という印象がありますが、それとは対極にあるような自由で明るい光景に映りました。英語圏の文化や国際感覚を持ち合わせている外国人講師がレッスンを行っているから違和感がなく活き活きとした雰囲気を生み出しているのでしょう。中には運動が苦手な子もいたと思いますが、諦めずチャレンジしようという姿勢が参加児童全体から見受けられました。

中村 美浜町に訪れる度に子どもたちの変化や成長を感じます。English Sports Campは、”トータルフィジカルレスポンス”をベースにさまざまなスポーツ科学の要素を取り入れたプログラムです。いわゆる「授業」となると、整列したり話を聞いたりすることに時間が取られ、実際に体を動かす時間が短くなってしまいます。そもそも現代の子どもたちは運動量が足りていないので、動作を止めることなく常に動いていることを意識しています。運動量を確保しながら英語でコミュニケーションをとって発散するのですが、英語もインプット型よりアウトプット型を多めに取り入れており、ただ単に机に向かって読み書きをする学習方法では得られない、非常に理にかなった英語学習方法であると考えます。英語が好きな子が運動を好きになり、運動が好きな子が英語を好きになるといったような好循環も生まれやすいです。今は学校の校庭や体育館で行うことが多いですが、今後は美浜町の自然資源を活かして、海や山や畑のような子どもたちの五感を刺激するロケーションでEnglish Sports Campを実現することにチャレンジしたいです。

山中 子どもたちは日に日に発音も上手になっていますし、特に語学と音楽は、耳から入るので小さいうちから体験する方が良いと思います。English Sports Campは、英語とスポーツの2つが同時に身につきますし、勉強なのかスポーツなのか遊びなのか、境界のない楽しい学びの場を提供していると思います。

伊藤 去年参加していた子が今年も継続して参加をしていました。よいサイクルが確立されていると思いますので、これに地域の大人がさらに関わっていくと、まさに”スポーツを核としたまちづくり”が一層進展するでしょう。河和小学校の子どもたちの国際感覚の修得にもこのEnglish Sports Campが役立ってくれると良いですね。

中村 学校や行政の方からこんなにもスムーズにご理解をいただき実践に移れたことは過去にありません。本当に感謝しています。この取り組みを推進していくことで、それに興味をもっていただいた他の行政の方々や、日本の教育に関心のある海外の方が、美浜町に見学に訪れる可能性もあります。それが美浜町の豊かな観光資源へ目を向けてもらえる機会に繋がることも期待できます。

山中 実は私は小さい頃運動が苦手だったのですが、登山やヨガを通じて幼少期に感じていた”体を動かすことの喜び”を再発見しました。得意不得意はあっていいと思うのですが、子どもたちにも「体を動かすって純粋に楽しいんだな」という感覚を身につけて、心身ともに豊かに成長していってほしいです。

中村 教育評価の基準も、相対的にこの学年で何位だったかよりも、昨日の自分より声が大きくなったとか、1年前より自信をもって発表できるようになったとか、個々が成功体験を積み重ねていくその過程を評価できるようにしたいですね。美浜町の教育の特性を高めながらこの取り組みを全国に拡げ、町内外にスポーツまちづくりのファンを増やしていきましょう。

伊藤 大人が「自分の子どもにもここへ通わせたい」、「この地域で子育てをしたい」と思えるような魅力的な環境ができれば人を呼ぶことができると思います。住民の皆さんをはじめ、美浜町全体が協力をしてこの温かい教育環境の整備がさらに進めば、町民の意識も高まり好循環が生まれます。この新しい取り組みを多くの方に伝えていき、理解を促進したいですね。今後も「子どもたちのために」よりよい環境づくりに努めていきたいです。

山中 私たち教職員の願いは、子どもたち一人一人が、それぞれの良さを活かして成長し、自立して社会参加できるようになることです。学校の教育活動を通して、この思いが伝わることを願っています。教職員をはじめ、さまざまな立場の方が知恵を出し合って、学び多き取り組みにしたいと考えています。そうすることで、子どもたちは多くの達成感を味わい、成長していくと信じています。

左から:みはまスポーツまちづくり推進室/みらい株式会社 中村健太、美浜町立河和小学校 校長 山中信子、美浜町教育委員会 教育長 伊藤守

Text & Photograph by Shogo SATO


■LINK

”スポーツまちづくり”とは https://mihama-sportspark.aichi.jp/top/be_a_challenger/

美浜町公式HP https://www.town.aichi-mihama.lg.jp

スポーツ庁 令和4年度体力・運動能力調査の結果 https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/houdou/2023/jsa_00001.htm


■English Sports Campとは?

身体を動かしながら語学の習得をする「トータルフィジカルレスポンス」をベースにさまざまなスポーツ科学の要素を取り入れ、現代の子どもたちに必要な体力・運動能力を育てながら効率良く語学を学べるプログラム。現在、美浜町内の河和小学校において導入されており、イギリス人講師のStuartがプログラムを担当している。


■Stuartからのメッセージ

 

 

 

 

 

英語を身につけるうえで大切な事

英語を学ぶ皆さんにとって大切なことは、学ぶ意欲や積極性です。 そんなことは当たり前だと思われるかもしれませんが、英語レベルに関わらず新しいことにチャレンジしたいとか、これは英語で何と言うのだろう?という探求心が英語学習の成功をもたらすと考えています。

そして、英語を身につける上で最も重要なことは、間違いを恐れないということです。 失敗や間違いはチャンスであり、そこに大きな学びがあります。たとえ自分の答えが正解でなかったとしても、英語の発音が少し間違っていたとしても、屈することなくチャレンジを楽しむことが英語学習には欠かせないのです。

また、年齢が上がるにつれ、「なぜ自分の答えは違っていたのだろう?」と考える力は英語習得を飛躍的に楽しくさせます。 だから英語を教える講師は、子どもたちがたくさんチャレンジできて、失敗しても「安全な環境」を提供することが大切だと思います。

英語教育は本来どうあるべきか

英語教育ではアウトプットが一つのキーポイントになります。 アウトプットは子どもたちが覚えたことを実践するのに欠かせません。アウトプット量が多ければ多いほど英語を話す機会に直面するわけです。方法としては子どもたち同士のペアワークやチームワークなどがあり、アウトプットを練習するのに適しています。

また、子どもたちにとって ”チャレンジング” であることも必要です。子どもたちが最もよく学び、より成長するのに一番適しているのは、現在のレベルよりもほんの少し上の課題を与えることです。講師がそれを理解した上でレッスンプログラムを組めば、子どもたちはその目標に向かって意欲的に取り組んでいきます。

そして最後に、レッスンはインタラクティブ(双方向)であることです。 教育は、講師と子どもたちが一緒になって行うのが一番です。 インタラクティブなレッスンは、講師と子どもたちがお互いに助け合うことで、よい学習環境を作り出すことができます。例えば子どもたちの活気に満ちた元気な態度がクラスや講師を助け、講師は英語を指導することで子どもたちをサポートします。このようなポジティブな環境下での学習が、本来あるべき英語教育の姿だと思います。

TOP